独身女性、一戸建てを買う。

新築一戸建てを購入したはなしを徒然なるままに。

元カレのこと。

「じゃあどうしたらいいんですか?」

と聞かれて

「帰らないでほしい」

と泣いた。

 

彼の前で泣いたのは、後にも先にもあのときだけだった。あの日だけ。

 

 

私は続けて言ったのだ。

「帰らない人がいい」

と。

 

いつも

 

待ち合わせをして会ったって、その日の終わりが近づく頃になると、ちゃんと彼は帰っていった。

 

それが本当に嫌で、彼の後ろ姿が遠ざかっていくにつれて、自分の心の薄皮が何重にも剥がれていくような、そんな気がしたものだった。

 

 

 

 あの日、私は初めて我が儘を言ったのだ。

彼との、決して短くはない付き合いのなかで、初めて。

 

 

泣きじゃくる私に、彼は心底うんざりしたような、怒ったようなかんじで言った。

「そんなんだったら、もう逢えない。もう来ない」

と。

 

 

でもそれは、私の想定内の答えだった。

 

 

 

その反応を常に予期していたからこそ、これまでは、何も言わずに別れ際の物悲しさをそっと受け入れていたのだった。わずかな抵抗のしるしとして、無口になって俯くことを除いては。

 

 

でも、その日の私は違った。

 

 

その日、私は自分に正直だった。

「私が今までにそんな我が儘を言ったことがあるか」

と、そうはっきりと言い切った。

 

 

「1日くらい、たった1日くらい、私の我が儘を聞いてくれたっていいじゃないか。私がこれまでにあなたに帰らないで、とか、会いに来てとか言ったことがあるか」

 

 

泣きながらそう、反論した。

 

 

そのときの私は感情のたがが外れていて、だからただただ強い想いを彼にぶつけた。でも、決してヒステリックではなかったと思う。場面としては、そりゃ泣いているし、険悪な雰囲気もあったけれど、わたしの主張は至極単純だったし、叫んでいたわけでもなければ、モノを投げつけたわけでもない。

 

 

たった1度くらい私の我が儘を聞いてほしい。これまでに、私がそんな我が儘を言ったことなどないのだから。

 

 

私がそんな風に、はっきりと自分のそういう欲望を口にしたことはそれまでになかったと思う。

 

 

結局、彼は

「わかりました。」

といった。でも1通メールをさせてくれと。

そのメールをすることはいいか?と私に確認した。

 

 

わたしはもちろん了承して、彼はメールを打ち、私たちはそのあと歩いて近所のスーパーまで出掛けた。

 

そのことは、いま思い出しても、悲しくて、ではなくて、嬉しくて泣けるほどの出来事なのだ。ガストでこのブログを更新しながら思わず泣いてしまうほどに。

 

 

 

たった1日好きな男が自分のもとから帰らなかったくらいで、私は幸せになれる。そんな安上がりな女なのだ。たぶん標準的な女よりも我慢強いし、ちゃんと言うことだってきける女なのだ。

 

 

 

世間では、なんだか気の強そうなヘンテコな女だと思われがちだけれど、べつにそんなことないのだ。

 

女として自己評価が低いから、我が儘を言ったりしないのだ。めったには。

 

 

 

 

別れて1年以上経った今日、私はようやくこの日のことを文字にできた。

 

 

私は、あのとき、もう別れる覚悟はあったんだと思う。

だから、我が儘を言ったのだ。

 

 

たぶん。